6.5 進化に興味を持つ人たちへの四つのアドバイス
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主な関心は、ヒトの知性の進化、性淘汰がいかにヒトの行動に影響を与えるか、進化心理学の観点からの消費行動の理解、そして遺伝と臨床研究など 彼の配偶者選択と性淘汰理論では、ヒトの知能と心理の進化は自然淘汰ではなく性淘汰によって駆動されていると考え、ヒトの最も魅力的な心理機能や知能は性的相手を引きつけ、喜ばせるために進化してきたという また、彼はマーケティングにおいて、ヒトの遺伝的特性を利用した商品のマーケティングにも興味を持っている
200万年来の小規模コミュニティでの暮らしがもたらしたヒトの一連の遺伝的特性は、現代人の消費行動に影響を与えている
昔の社会では、社会的地位の高低は、子孫を残せるかどうかにとってきわめて重要であった
だからこそ現代のマーケティング担当者は「贅沢品の消費が富、地位、品位を象徴すると信じている」が、彼らはヒトの本質において最も重要な要素(親しみやすさ、知恵、創造性など)を見落としている
これら見落とされている要因が、現代の商品マーケットの発達を制限している
ミラーは著書"Spent"において、ヒトの遺伝的特性の消費行動における進化とその現れについて詳細に説明し、今後のマーケティング研究に重要な方向を示した
他には遺伝と臨床研究においての貢献もある
本文
最初は認知心理学を学ぶつもりだっったが、あまりに退屈な空理空論に思えてきた
その後、スタンフォードの友人ピーター・トッドが、私と同じくこの進化心理学という新領域に加わりたがっているとわかったのだが、実際に何を研究すればよいのか、私たちはよくわかっていなかった 2人とも遺伝的アルゴリズムを習得していたので、それを応用して、いくつかの簡単な作業課題を学習するための神経ネットワークを設計してみた 進化と学習が相互作用して適応的な行動を創出するさまを例証したいと思った 性淘汰は強力であるにもかかわらず日のあたっていない理論で、体や脳の性差を説明するにとどまらず、鳥の歌やヒトの言語といった派手な知的能力の迅速な進化も説明できるように思えた
1993年の博士論文で示唆したのだが、配偶者選択はヒトの脳の進化、特に生存をめぐる自然淘汰では説明が困難な形質(芸術、音楽、ユーモア、創造性、言語など)の起源に関して重要な役割を果たしたはず 2001年にニューメキシコ大学に赴任
進化心理学、生物学、人類学研究の中心地
どうすれば”The Mating Mind"で述べたいくつものアイディアを検証できるか一心に考えるようになり、そして自分はもっと個人差について、知能、パーソナリティ、精神病理、行動遺伝学といった観点から勉強しなければならないと気づいた ここ数年は、進化心理学と個人差に関する研究を統合するために、多くの時間を費やしている
とりわけ力を注いでいるのが、ヒトの心の特性を、性淘汰や社会的な淘汰の中で現れた適応度指標(表に現れない表現型形質や遺伝的な質を示す、コストを伴う正直なシグナル)とみなして分析すること マーケティングや広告、プロダクトデザインの世界は現代人の文化の中核のように思え、進化心理学は消費主義にもっと注目すべきだと考えた
このことが"Spent(消費資本主義!)"の上梓、および進化消費者心理学についてのいくつかの研究につながり、進化消費者心理学は今では私の主要研究テーマの一つ 私の今後の研究計画は、最近オーストラリア・ブリスベンのニック・マーティンの遺伝的疫学研究グループでサバティカルを過ごしたことに大きく影響された そこは世界有数の双生児サンプルを保有しており、多変量行動遺伝学(ヒトが持つ複数の形質間の遺伝相関に関する研究)とゲノムワイド関連解析(形質に影響する遺伝子を特定する試み)の双方で卓越した研究を行っている そうすれば、先史時代に起こった進化に関する自分たちの理論を、ヒトの本性の実体である遺伝子に結びつけることができる
今後の研究フロンティアと進化心理学における挑戦
進化心理学の発展は一様ではなかった
このギャップは進化心理学とその適用先の研究分野の両方に精通した若い研究者たちによって、次第に埋められていくだろう
進化心理学者が成功するためには、われわれの学問を、理論が不備で資金が豊富な分野、教授一人あたりの学生数が多い分野、傲慢さではなく不安を抱えている分野に輸出すること
資金が豊富ということは、奨学金やポスドクの採用、アカデミアでの職、学会のための旅費が豊富ということ
教授に対して学生が多いということは、新奇の話題を扱うコースの開設を切望する学生の声が届きやすいということ
不安感があるということは、分野を救うことができる新たな考え方を切望しており、たとえ分野が有する先入観に相容れない考え方でも真価が認められやすいということ
経済学は、助成金交付が少なく理論が充実しており、教授一人あたりの学生数が少なく、自身と傲慢に満ち溢れている
なので進化心理学は当面受け入れられないだろう
対照的に、健康心理学は、研究費と志望学生が多いのに、理論がしっかりしておらず評価も安定していない
よって進化の考え方を受け入れやすい、よりよい標的であると言える
同じことが精神医学、消費者心理学、ポジティブ心理学にも言える
心理学の研究手法は来る将来、より一層強力になり、それを修得することが若き研究者にとってより一層重要なことになるだろう
私がとくにわくわくしている技術は、嗜好学習ウェブサイトとスマートフォンの2つ
大手インターネット企業は、数百万人規模のユーザーの嗜好に関するデータを集めているが、こういったデータが個人差や対人認知、配偶者選択、消費者心理学についての心理学的研究に使われることはほとんどない
スマートフォンは輪をかけて刺激的で、数年後には10億を超す参加者を対象とした心理学的研究を行えるようになる可能性がある
進化心理学に興味を持つ学生と若手研究者への4つのアドバイス
科学に関するグローバルな視点を育むこと
英語を一生懸命勉強すること
進化心理学者の職を得たい人は、現在でも進化心理学者の求人がとても少ないということを忘れない
特に習熟しておくと便利な技術スキルは、脳イメージング、多変量統計学、多変量行動遺伝学、ゲノムワイド関連分析、進化理論、集団遺伝学、適応的行動に関するコンピュータ・シミュレーション技術、そして生態学的に妥当な相互作用実験の計画法